アプリケ とは、土台となる布地の上に、図案の形に切った別布をのせて刺繍やミシンで縫いつけたもの。私達は、アプリケのテクニックと様々な布を使って独自のデザインを創作します。何年もかけて集められた豊富な素材。色々な形に切った布を徐々に並べながら形を仕上げていきます。そして、最後にミシン刺繍で表面を豊かに飾りつけて完成させます。 作品には、どこか素朴さと同時に、貴重さを感じさせるものがあります。
特別な、思いがけない出会いというものがある。
ある日二人の共通語であるテキスタイルに導かれ、コリーヌと エロディは一本の道を辿り始める。それは互いの秘密を与え合い、他者の素晴らしさに向かって開かれた幸運の道だ。
隠れた家、花が咲き乱れた庭、二人のアトリエにはアーティストが作品の中で生きる、そんな場所の魅力がある。
色分けされて積み重ねられた布の脇に美しい陶製の彫刻が置かれ、オレンジの花の微かな香りとクミンの匂いが混じり合って漂う部屋に私たちは迎えられる。
コリーヌとエロディはあらゆる布を絹のように扱う。
作品は忍耐強く長い時間をかけ、細心の注意を払って作り上げられる。
彼女たちは静寂の中で仕事をする。繊維自身がここ、向こう、そして他所のことを語る。
彼女たちは幾度となく繰り返し作品に手を入れて仕上げていく。彼女たちのイマジネーションと同じくらい軽やかな手つきで思考しながら布に触れ、裁つ。
装飾の誘惑に負けないために高級な素材を求めず、日々の暮らしの中で使い込まれた質素な布を再利用する。それらはモロッコの旅の思い出やブルターニュの日の出、幸せな笑顔に満ちたナガサキを語る。
布たちは経験したこと、過去の重みを抱えていて、一輪のアネモネのようにシンプルな人生を表現する。
あらかじめ裁断され、散りばめられた布きれは落ち着いた軽いタッチではぎ合わされていく。それらは滑り、踊りながら、少しずつ接ぎ合わされ、 無意識な記憶が作品になっていく。別れ、再会、一期一会、守られた約束、忘れられた伝説、謙虚さ、思いやり、微妙な色使いの美しさ。
言葉が紡がれるように布きれたちは配置されて混じり合い、色彩のグラデーションは描き出す。初冬の夕方のグレー、明け初めた亜麻畑の一角のブルー、果樹園の下草のグリーン、秋の夕焼け空の赤。そして様々な色調のモロッコピンク!!!それはまさに永遠に続く道。
はぐくみの針は通りすがりに噴水のさざめきや風の奏でる曲を拾い集めて道を共にしながら、端をまつって輪郭をしっかりさせ、あるいは角を丸く
することで場所と時間の隔たりを消したり強調したりする。
コリーヌとエロディは予知しうる結果を避けて全ての可能性を模索し、制作上のリスクを恐れずあらゆる形を試す。
そしてもしあるモチーフ、ある色が抵抗を示したら、二人は二重の眩暈の中でじっくり話し合い、そして彼女たちの夢想から新たな道が生まれる。
その時やっと、ある雰囲気が生まれる。作品は成長し、構想が納得のいくものになる。それは何かを描出するのではなく、リズムであり、イメージの喚起だ - 海には決まった顔がない – 風景は何かの記憶。
風の吹き抜ける虚空でひらめくレースを通し、彼女たちの手の中で糸が滑り、穏やかな喜びが安定した指の間から流れ出し、時おり違う方向に抜け出しては落ち着く先を見つける。そして一歩一歩、空と出会うために無に近づく。
一つの作品をずっと見ていると、いつの間にか子どもの笑い声、石の沈黙、固く閉ざされた秘密、弱さと粘り強さをよく知る木の葉の言葉が聞こえてくる。
私はそぞろ歩き、そして夢想の王国を与えてくれる作品の中に再び入り込みたい欲求を覚える。
扉は開かれている。後は自由に迷い込み、深淵にのみ込まれそうになって、そこで膝を折るも抵抗するも自由だ。
私の魂は光に身をゆだね、それとともに思考がおいつかなくなってくる。何に愛情をかたむけ、何に感情を注げばいいのかわからなくなり、夢想から覚めるまでしばし待つよりほかなくなるのだ。

マリー・フランス ヴィルコック